医師選びは知識と経験が大切ブログ:2018-10-03
当時の私は、
とある都市の大きな企業に勤め、マンションで一人暮らし。
ごく稀にママが田舎から私のもとを訪ねることがあった。
おいしいものを食べに行こうという私に、
ママは親子水入らずで、のんびり部屋で過ごしたいと
わざわざ重たい野菜を抱えてやってくる…
ある日、仕事から帰った私は、
オートロックのロビーから部屋いるママに
「ただいま。あけてー」
インターホン越しに呼びかけた。
ところが、ママからの返事はなく、
マンション中に非常ベルの音が響き渡った。
ママが部屋の開錠ボタンと非常ボタンを押し間違えたのだ。
ロビーで頭を抱える私のもとへ、
青ざめたママがやってきた。
私は恥ずかしさのあまりママをひどく責めた。
騒動の後、部屋には
ママが作った夕方飯のにおいが立ち込めていた。
田舎から持ってきた野菜の和え物、
帰るタイミングにあわせて焼かれたであろう焼き魚、
細かく刻まれた葱の浮かんだ味噌汁に、揃えられた二人分の箸…
ショックの余り俯いて手をつけないママをよそに、
気まずい中、冷めた料理を私は黙って食べた。
あれから私も二児のママになり、
7〜8年たった今になって
あの出来事を頻繁に思い出すようになった。
恥ずかしいのはママではなく、
つまらない見栄で
かけがえの無い時間を台無しにした私だった。
今さらと思いつつもママに言った。
「お母さん、あの時ごめんね」
意に反し、ママはその時の恐怖を、
近くにいたお兄さんと笑い話のネタにしてケラケラ笑っていた。
私が責めたことなど忘れているようにみえた。
それでも、ママを思う時、
私は真っ先にあの出来事を思い出す。
そして
「大したことないよ」
そう言えなかった自分を悔やみ続けると思う。
あの日の冷めてしまったママの手料理の味とともに…